研究内容

その三

ダブルクリック反応:生体分子の新たな化学修飾法 〜一挙両得〜

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関連項目

 近年、生体分子を標識する画期的な手法として、銅触媒を用いないクリック反応が汎用されるようになってきました(詳細はトピック2をご覧下さい)。 この手法では、分子模型を組むのが困難なくらいに歪んだ環状アルキン(シクロオクチン)を利用すると、アジドとの環化付加反応が触媒なしでも円滑に進行することが鍵となっています。shapeimage_3_link_0
 この研究成果を受けて、早速、蛍光性などの機能を持った環状アルキンが市販されるようになり、その結果、生命科学者が利用できる手法になりました。 具体的には、観察したい生体分子に生物学的な手法でアジド基を導入した後(代謝経路を利用し、アジド糖を糖鎖に導入したりします)、例えば、これを蛍光性の歪みアルキンで標識し、蛍光顕微鏡で観察する、というように使われています。 しかし、本手法は様々な場面で利用できる優れた手法ではありますが、市販されている機能性環状アルキンの種類が限られており、研究目的に応じて環状アルキンをその都度合成する必要があります。
 例えば、目的の生体分子以外も蛍光標識されてしまったり(疎水性部位とタンパク質との相互作用によって、アジドを持たない生体分子にもくっついてしまったりします)、観察時の褪色(励起光によって蛍光性化合物は徐々に分解します)を緩和したい場合、適切な蛍光性部位を選ぶことで問題点を解決できるかもしれません。 しかし、市販されていない環状アルキンを入手するには、高度な化学合成が必要になります。腕の立つ有機化学者であれば難なく合成できる化合物かもしれません。 とは言っても、例えば、環状アルキン部位と蛍光性の部位との組み合わせを変え、さらに親水性を高めるように連結部を変え、目的の現象を観測するために詳細に検討したい場合はどうでしょうか? 多数の目的化合物を合成・精製し、これらを提供するためには、どうしてもかなりの手間ひまがかかってしまいます。 従って、生命科学研究の速度を飛躍的に向上させるためには、研究現場で利用しやすい新手法が待ち望まれています。
 これに対して我々の研究グループは、生体分子への導入が容易なアジド基と蛍光性分子等の小分子アジドとを、2ヶ所の歪んだアルキン部位でつなぎ合わせる新手法「ダブルクリック反応」を考案しました。具体的には、2ヶ所の歪んだアルキン部位を2つのベンゼン環で架橋したSondheimerジインに着目しました。すなわち、ジインとアジドとの2度のクリック反応が銅触媒なしでも速やかに進行し、生体分子アジドと小分子アジドとをジインを介して連結できると考えたわけです。
 このジインは、1974年にSondheimerらによって初めて合成された化合物です(J. Am. Chem. Soc. 1974, 96, 5604.)。その興味深い構造が注目され、電気化学的な挙動(J. Am. Chem. Soc. 1976, 98, 5560.)やDiels-Alder反応における高い反応性(Tetrahedron 1981, 37, 99.)などが明らかにされました。その後、他の研究者らによって、その構造的な特長を活かし、歪んだアルキン部位を配位子とする金属錯体(R. Gleiter et al., J. Organomet. Chem. 2006, 691, 1814; M. Tanaka et al., lnorg. Chim. Acta 1997, 265, 1; etc.)、筒状化合物(R. Gleiter et al., Chem. Eur. J. 2009, 15, 3380.)、テトラフェニレン類(A. Sygula et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 3842.)などが合成されてきました。さらに、大寺先生らによってSondheimerジインの簡便合成法が開発されました(Chem. Eur. J. 2002, 8, 2000.)。本合成法は、市販のアルデヒドから2段階、ワンポットで効率よくジインが合成できるという優れた手法です。そこで、我々もその合成法に従い、ジインを合成し、ダブルクリック反応の検討に着手しました。なお、このジイン、一見すると不安定で取扱いに難がありそうですが、実際は水や光、空気、シリカゲル、弱い酸や塩基などにはそれほど敏感ではありません。長時間、空気中で放置しておくと、徐々に分解してしまう程度の不安定さで、気軽に利用できる化合物です。http://dx.doi.org/10.1021/ja00824a066http://dx.doi.org/10.1021/ja00824a066http://dx.doi.org/10.1021/ja00434a025http://dx.doi.org/10.1021/ja00434a025http://dx.doi.org/10.1016/0040-4020(81)85045-4http://dx.doi.org/10.1016/j.jorganchem.2005.12.068http://dx.doi.org/10.1016/S0020-1693(97)05682-Xhttp://dx.doi.org/10.1002/chem.200802455http://dx.doi.org/10.1002/chem.200802455http://dx.doi.org/10.1021/ja070616phttp://dx.doi.org/10.1021/ja070616phttp://dx.doi.org/10.1002/1521-3765(20020503)8:9%3C2000::AID-CHEM2000%3E3.0.CO;2-Bshapeimage_11_link_0shapeimage_11_link_1shapeimage_11_link_2shapeimage_11_link_3shapeimage_11_link_4shapeimage_11_link_5shapeimage_11_link_6shapeimage_11_link_7shapeimage_11_link_8shapeimage_11_link_9shapeimage_11_link_10shapeimage_11_link_11